一部上場の大企業にいる。いろいろなことを手がけているコングロマリット企業だ。ニッチ戦略を得意とする。そのかいもあって、リストラらしいリストラをしていない。一部赤字事業のスピンアウトは行ったが、特定社員の首切りがあったり、給与が大きく下がったりということは未だ経験していない。
　世間でいうところでは、暖かく懐の大きな優良企業だ。決して派手ではなく、地道で、泥臭い会社であるがそこが安定の秘訣かもしれない。
　入社9年目で年収600万、毎月12万のマンションに5万円で入居している。先日昇格したので、同期の中で半分以上のポジションにいる。1年早く昇格したのが同期で5％、今年したのが40％だそうだ。
　その会社を辞めようとしている。目立たず、毎日こつこつと生きることに我慢できないために。いや、ここにいることでの自分の将来が見えてしまったことに嫌気がさして。だらしないやつ、ミスが多いやつというレッテルを一度はられてしまったらそれをはがすことは難しい。あほかもしれない。我慢できればあと10年は楽して生きられるのに。
　多分、このままでは出世できないと思う。気持ちが死んでしまったからだ。心の片隅で来年の今ごろはいないかもしれないなんて思ったら、素直な僕はどうしてもやる気満々になることができない。
　世界中に転勤させられることの不条理さ、いやな上司の顔色うかがって評価してもらうことの不条理さが最近我慢できなくなってしまった。一度心の折れたサラリーマンはどうやったら、生きがいを見つけられるのか。だれかおしえてくれないか。

　高崎から帰ってきた。疲れたなあ。会社で書類整備をしたけど、全くはかどらず、8時には会社を出た。何をしているかというと、本来は営業マンの仕事である売上割戻しの資料を経理の俺が作っている。なんでか。営業マンが作ったものは不備だらけ。間違いチェックして、指導して、送り返して、判子をもらいなおしてということをやっていると結局自分が最初から作ったほうがいいからだ。本当はそれでもやらして指導した間違えのないように教育してということをやっていかなくてはいけないのだが現場と経理が離れた現状では、むなしくなってくる作業なのだ。
　シェアードサービスという仕組みがある。経理を一箇所に集めて、そこで経理処理をするというシステムだ。この建築業界のどろどろの中で送られてきた伝票だけで、処理が終わると思っている連中が考えたシステムだ。世間でできていることは当社でもできる。低コストは個人の遣り甲斐に優先する。そんな間違った理論で、いつのまにか間違った方向にうちの管理システムは向かっているのだ。
　営業マンの不備を残業した直している俺ら。あいつらにつき返しても、不備書類は返ってこない。返ってこないと決算がしまらないのでとりあえず返してもらう。そして処理して、また返す。返ってこないでこっちも忘れてしまって監査の前に慌ててごまかす。そんな仕事に魅力誰が感じるか。

　今高崎のネットカフェからこの日記を書いている。失敗により俺は首都圏担当から新潟、高崎というローカルの営業所担当に代わった。格下げされたのだ。
　今日はじめて関東営業部の営業部長と話をした。みんなの前で挨拶をした後の一言は「君それでは間違っている。経理といっても計算屋でしかないな」だった。
　いくら偉い人でも初対面の人にそんなこと言われなきゃいけないのだろうか。一気にやる気がなくなった。新しい環境で一から気持ちを入れ替えて頑張ろうと思っている人に対しての言葉とは思えない。といっても彼は俺の一連の出来事や心の中は知らないのだから当然か。
　俺はこの日記に正直な気持ちをぶつける。何でこんな事になってしまったのだろう。日々、仕事に対してやりがい、面白みがまったく感じられなくなってしまった。あれほど、俺はこの道にプロになろうと決意していたにもかかわらずだ。サラリーマンの挫折ってこんなかんじなのだろうか。
　入社したときから仕事は生活の糧を得るためと割り切ってやっているやつらが居た。俺はそれを尻目に、残業をし、プライベートに自己啓発をし、将来を夢見てやってきた。それが今では最初から仕事なんかに期待しなければ良かったと思っている。仕事や勉強のために人生で一番大切な嫁をほっておいたことを俺は後悔しはじめている。
　多分、俺はこのままではうつ病になってしまうだろう。人生の大きな部分を占める仕事に対してこんな風にしか考えられない自分を俺は情けなく思う。

　だいぶ心が立ち直ってきた。これからどうする？今の年収600万を捨てて会社やめたろか。もうすぐ家が建つ。借金が1300万だ。毎月10万づつ返して行けば10年で返済だ。
　この状況で、いつ転勤になるかびくびくしながら会社に残るか、それともフリーランスになるか、はたまた転職するか。最近悩んでばかりいる。俺ってエリートだと思っていたけど要は優柔不断な奴だったのね。失敗をおそれる典型的事勿れ主義。そんな人じゃないと思っていたら、実はそうだった。　

　今週も終わった。今週で担当代えのため机の引越し。今まで部署の中心の場所に位置していたのに、次は一番端っこ。端っこのいい点は皆から忘れられること、さびしい点でもあるが。とにかく、来週から日本で一番大きかった部署所の担当から、関東のとある県の営業所担当になる。まあ、転勤にならなくて良かったが、来週からは新幹線で出張ばかりになる。
　ただ、来週から別の恐怖も始まる。それは、次の担当者が俺の仕事をチェックすることだ。引継ぎのときの原則は前任者のアラをいち早く上司に報告しておくこと。そうしないと自分のせいにさせられるから。転勤してその場にいないのなら、それでもいいが、隣にいるのだから逃れられない。とりあえず9月は厳しい月になりそうだ。

　昇進試験に受かった。昇進試験を受けたのは、おれのだらしなさが発覚する前だったので、影響がなかったようだ。これで同期入社の半分より上にいることが証明されたことになる。以前の俺なら喜んだろうが、今の俺は全然無関心。上司の手前、「ありがとうございます！」ってにこっと微笑んだが、内心は白々しさで一杯だ。次に昇進するのは何年後になるのだろうか。だらしない経理マン、性格改善するには時間がかかる。

　以前の俺は自信にみなぎっていた。不思議だ。だらしないことを忘れて、仕事ができる人と思いこんでいた。実際周りもだませてきていた。
　実は、俺は国家資格を持っている。それを頼りに、独立しようと以前は考えていた。今の仕事はくだらない。もっと自分を生かす仕事があるはずだ。俺には才能がある。独立してもやっていけると。
　ところがそのくだらない仕事すら自分はろくにできてなかったのね。本当にあの自信はどこから来ていたのか昔の自分に聞いてみたい。
　独立しようという思いは今の会社から逃げたいので強くなったが、仕事がろくにできないのに独立しても失敗するという自信のなさも同時に強くなってしまい、今やジレンマ状態に陥っている。
　方や転職だとしても、逃げの転職になっていまい、踏み切れない。転職雑誌みても失敗したから転職したいなんて特集ない。逃げたい、でも今逃げたら後悔する、そんな思いで頭かかえる今日この頃。

　いったんメッキがはがれると、社内での立場は急転する。前は、「やつがOKと言ってれば、OKだ」で上司は目暗印だったのが、あれやこれやと質問攻めでなかなか書類が通らない。いままで優秀ということで仕事量だけはNO1なので、そうなると全く業務が回らなくなる。
　なにより、辛いのは仕事の担当を代えさせられたことだ。後任者は「あんた、こんな整理もできてないの。こんな管理表もつくってないの、いったい忙しそうにしてたけど何やってたの」バリの質問ぜめをしてくる。省エネ対策で、温度は28度になっている。でも俺が汗びっしょりなのは暑さのせいでない。冷や汗なのだ。
　いまや、優秀という評判を取り戻すことはできない。とにかく何言われても、作り笑いを維持させるだけだ。

　日本の会社で現在従業員が1万人以上いるのは100社ほどしかないらしい。自分はそこで経理マンとして新卒で入社し、8年目になる。
　7月までは優秀な経理マンとして同期ではトップ、担当部署は日本で一番大きな営業所、順調なサラリーマン人生を歩んでいた。それが7月に今までの評価がめっきだったことが判明する。